脳波について詳しく知りたいなら良峯徳和氏の研究ノートがおすすめ

こんにちは.けんゆーです(@kenyu0501_)
休日なのでざっくり研究論文を読み漁っていたら,脳波に関する超絶おすすめな研究ノートを見つけたのでシェアしておきます.

脳波の謎:リズムとその存在理由

多摩大学の良峯徳和先生が執筆した「脳波の謎:リズムとその存在理由」です.

多摩大学の学術リポジトリから公開されているので閲覧できます.

2017年の2月に公開されていて非常に新しいものです.
脳波の研究に携わっている研究者は一度読んでおくことをお勧めしておきます.
ここでは,おいらが読んだ感想を書きます.

 

低価格の脳波測定機が及ぼした効果

まず,この研究資料のイントロが面白いです.
かつては脳波測定機は,医療用途で使われているのが普通で高額でした.

しかし技術進化に伴って低価格な医療用途ではない一般消費者向けの脳波計が誕生してきます.
脳波でおもちゃを動かすものが低価格で変えたりします.ネコミミなんかも流行りましたね.
そこで何が起きるのか?
著者は言います.

●「脳波」の簡便な測定装置とその応用が一般に広まり,メディアやネットで話題にのぼると,脳波に関する俗説が独り歩きする.

●脳波の本質に関わる謎や問いが覆い隠されている.

●しっかりとした科学的根拠もなく,あたかも既成事実であるかのように表現されいる現状は,脳波を医療以外の分野で研究,応用して志していこうとする者にとって,望ましい状況ではない.

そこで,この研究ノートでは,現状科学的根拠のある内容と,そうでないことを明確に線引きしましょうぜ!っていう内容です.

 

脳波のメカニズムを整理する

脳波がどのように発生しているのか?

誰が初めにそれを見つけたのか?

最初の脳波計測はなんだったのか?

すごく丁寧にまとめられています.

 

今なら脳波を見るとなんでも分かるのでしょ?

脳波を研究していない人にとっては,脳波をみるとなんでもその人の特性とか精神状態が分かるかもしれないと思われている人も中にはいると思いますが,それはちょっと違います.
というか,ほとんど無理ゲーです.

なぜか?

それは一般的に扱う脳波が「頭皮上から取る信号」だからです.
頭皮上から取る脳波は,直接脳から取る信号に比べてノイジーになったり,信号自体の強度が下がります.
本研究ノートでは,直接脳から取る頭蓋内脳波を100分の1から1000分の1に減衰させたものが頭皮脳波として計測されると言います.

また,計測箇所の脳波自体は,周辺の神経活動の集積値であるので単独の活動電位と考えるのもおそらく厳しくて,,,,

解析は超困難!!っていう結論になります.

おいらも脳波を研究しているので超絶悩ましいことです.

 

脳波の持っているリズムで,人の心はなんとなーく分かってきている?

正確な解析は超困難といえども,なんとなーくなら心の働きなどは推定できると言われています.
脳波に見られるリズムを見る方法です.
本文から表を抜粋するのですが,脳波には心の状態と深く相関するある特定の周波数(1秒間に波が何回振動するのかという指標)を支配的に持っているといわれてます.

表は研究ノートからの引用

これも,おいらは研究していて思ったのですが測定箇所によっては出現しやすい周波数帯域もあるし,もちろん個人差もあります.
ただ,人はストレスフルになると脳波の振動数は高くなるので,ベータ波の含有量が高くなる傾向になりやすいです.
それでも周波数解析をするということは,脳波解析をする上で欠かせないことです.
本文に面白い例えがあったので抜粋します.

例えばオーケストラによる演奏の場合、波形を周波数解析すると、楽器の種類によってその音の高さ(周波数)や響き(倍音成分)などの特徴が異なるため、楽器ごとのパワースペクトルを用いて、そこにどんな楽器が参加していたかを分析することが理論的に可能とされている。

同じように、脳波を周波数解析することで、そのときの精神状態や 精神活動のもととなる脳内の具体的な神経活動の状態を推測することは理論的に可能なのか。 さらに、そうしたタイプの異なる精神活動や精神状態を生み出すと想定される神経活動は、どういう理由やメカニズムで、アルファ波やベータ波、シータ波が示す異なった律動的振動(リズム)を示すのか。

これまで数多くの脳研究者たちが、この謎解きに挑戦し、さまざまな仮説が提示されてきたが、これまでのところ、科学的に裏付けされた明確な答は得られていない。

人の思いもオーケストラの演奏のように,細かく分けることができるとかっこいいですね.
周波数解析だけでは,もちろん無理なことであるし,脳波のセンシングをするときにやっぱり信号が非常にノイジーであることが大きな原因です.

しかし,面白いことは以下です.

普通は、個々の律動的な特徴がそれぞれ独立的に重なり合ったら、波形は平均化されて特定のリズムは示さないと考えられるが、

しかしアルファ波などは明確に10Hz程度のリズムを刻む。

確かに,頭皮上から脳波を計測すると,それは頭蓋骨脳波の集積になって現れたり,骨や皮膚を通してノイジーになったりするので,波形は平均化されて特定のリズムは持たないと考えられます.
しかし計測して見ると,ある特定のリズムがある.

これは,もしかしたら,脳内の超莫大な数の神経細胞たちがお互いに同期しかつ強調しながら,そこらの領域一帯が同じリズムで活動していることを示してますよね.

なんか,そこらへんの減衰比率をうまく設定して,推定脳波信号を復元できたら良いのですが,,,,

大掛かりな実験設備が必要となりそうです.

 

海馬の振動同期の紹介

ここでは詳しく書きませんが,最後に脳神経活動の同期の紹介として,海馬の振動同期の研究報告がされています.
とても面白い話が書かれていると思いますので,よかったら読んで見てくださいね!

あと,冒頭にも出てくる以前流行ったネコミミはコチラ
脳波で使って遊ぶおもちゃです.

脳波を研究しているおいらからしたら怪しいですが,面白そうなパーティーグッズです.