- てんかん脳波の冷却抑制にちょっと興味がある人.
- どのくらいの速度で冷やせば良いか気になる人
- 研究が好きな人
こんにちは.けんゆーです(@kenyu0501_)
以前,”てんかん波は脳を冷却すると抑制される!どのくらいの温度が良いの?”という記事を書いて,
その時には学術論文と一緒に紹介させてもらったのですが,最適な温度は
15℃
という冷却温度でした.
しかし,まだまだデバイス開発を行う際には考えなければいけないことは山ほどあって,その山ほどある中の大きな一つのクエスチョンは
”じゃあ,どのくらいの冷却速度で脳を冷やしたら良いの?”
ということが気になると思います.
ゆっくり冷やして良いのか?,できるだけ早く冷やした方がベターなのか?
この疑問が解決しない限り,冷却装置をどのように制御したら良いのか検討がつきません.
そこで,おいら達は,山口大学医学部脳神経外科さんの協力のもと,再度動物実験を行って,脳冷却実験をしてきました.
ありがとうございます.
まとめた研究スライドの紹介
以下は,日本語のスライドです.
英語Verが見たい方はこちら.
ちなみにポスター形式も作りました.
なんか作りすぎ感もありますが,何かと参考になりましたら幸いです.
ポスター中の「てんかん性異常脳波」は正しくは,「てんかん”様”異常脳波」です.
てんかんモデルラットについて
実験に関しての倫理的前書き
一番はじめに動物実験に関しての倫理的まえがきを記載させてください.
- 本動物実験は,山口大学医学部付属病院医薬品等治験・臨床研究等審査委員会の審査を受けました.
- 「山口大学医学部動物実験指針」,「動物の保護及び管理に関する法律」,「実験動物の飼育及び保管に関する基準」に基づいて行いました.
- 山口大学医学部脳神経外科の協力の下で行いました.
てんかんモデルラットのテクニカルな内容について
ここでは,動物実験に用いた疑似てんかんラット(以下,てんかんモデルラット)の説明を行います.
最終的に脳を直接冷やせる状態にするので,頭蓋骨を抜かないといけません.以下のような状態を作成するまでのステップを記載します.
実験には4体のてんかんモデルラットを使用しました.
体重 400g~450g の Sprague-Dawley(SD)ラットです.
以下に,上の写真のような実験ができるまでの過程を示しておきます.
- 固形薬剤のウレタン麻酔 (1.25 g/kg, i.p.) を腹腔内注射し麻酔下に置く.
- 開頭のため脳定位固定器 (SR-6, Narishige Co., Tokyo, Japan) を用いて ラット頭部を固定する.
- バリカンを用いてラット頭皮上の毛を剃り、外科用メスにて頭部の皮切を行い頭蓋骨を露出した後、冷却する範囲を決めて歯科用ドリルで開頭作業をする(冷却する範囲はスライドを見てください).
注意:開頭作業は硬膜を損傷しないように十分注意をする.また適宜,生理食塩水を用いて脳の熱損傷を防ぐ. - 開頭後,てんかん様異常脳波の誘発剤であるペニシリンGカリウム (200,000 units/vial) を 体性感覚運動野 (AP:+1mm, L:+3mm) に皮質投与する.ペニシリンGの投与には,0.4×19 mm のカニューレを硬膜下 0.5mm に挿入し,マ イクロインフュージョンポンプ(EPS-64, Eicon, Japan) を使用して 1 μl/min で 5 分間連続して行う(total 200 IU/5 μl).ペニシリンGは1バイアル20万単位.ここで,ペニシリンGは中枢神経系において抑制性の伝達物質である γ-アミノ酪酸 (GABA) が GABAA 受容体へ結合するのを阻害する作用があります.
そのため,脱抑制を伴う中枢興奮によるてんかん様異常脳波が発生します.
本動物実験に関して重要なことを記載しておきます.
(これまで間違って用法を使ってきましたので,こちらが正確でございます.すみません)
- てんかんモデルラットは,睡眠下ではなく麻酔下(睡眠下であると痛覚があり倫理的に問題.)
- 今回の場合,てんかんという疾患をもつ”ような“急性のてんかん焦点モデルを作っているので,「てんかん様異常脳波」という言葉が適切でした.
(てんかんは疾患であり,疾患により引き起こされるのが病態,てんかんの病態は,てんかん性異常脳波やけいれん発作である)
以上の作業を朝から行って,実験が終わるのがだいたい夕方6時とかです.
しかも時間的に1体づつの作業になるため,途中で脳を傷つけたらあたふたしてしまいます.
全神経を集中させて歯科用ドリルで頭蓋骨を削りました.
それでも初日の日,初めてラットを使った動物実験をした時には吐きそうになりました..
謝辞:
動物実験を行うにあたり,ご協力をしていただいた井上貴雄先生(@tkoie)と,現在山口県立総合医療センターに勤務されている藤井正美先生に感謝申し上げます.
冷却する条件など色々
今回は,てんかん状態のラットに対して,四つの冷却速度の条件を試しました.
手書きでちょっと汚いのですが,冷やす前の脳表の温度36℃から,目標温度15℃まで冷却を行いますが,四つの冷却スピード条件として,
30秒,60秒,100秒,200秒
にしました.
つまり,はじめの30秒という条件で冷却をすると,36℃から,30秒後には15℃になっているということです.
てんかん脳波が効果的に消滅したかどうかは,脳波の持っている含有周波数を見て評価します.
高域の周波数がより少なくなった条件を調べることにします.
脳冷却実験の結果など!
てんかん脳波の抑制を確認してみる
いちよう,4体のてんかんモデルラットによる実験をしましたが,ここでは,一体分だけ結果を示しておきます.(詳細は上のスライドを見てください!)
四つの条件に従い,脳冷却を行っており,冷却中ではてんかん波が小さくなっていっているのが分かると思います.
次に,時間周波数解析を行って,どの条件の場合に,高帯域の周波数が抑制されているかを見ていきます.
時間周波数結果
先ほどの参考文献から抜粋した結果を添付します.
左の列に示した図は,各四つの条件での時間周波数解析結果です.
IIIという箇所が,15℃に達した時の状態で,Ⅱは,冷却中の状態です.
右に示した図は,てんかんモデルラット4体分の周波数の平均を示しおります.
確認したい箇所は,やっぱりIIIですね.
このIIIの時間帯の高周波成分アルファ波(赤)とベータ波(緑)を比較すると面白いことが分かりました.
なんと200秒をかけて冷却したほうが,高周波成分アルファ波(赤)とベータ波(緑),小さくなるのです.
つまり,脳冷却をする際に,効率的にてんかん波を抑制しようと考えたら,速い冷却ではなく,ゆっくり時間をかけて冷却する方が良いということです.
しかし課題もあります.
それは,てんかん発作の出現している状態はいち早くケアしないといけないので,もたもた冷却している暇なんてないということ.
この相反する二つの関係の中,また最適な条件や妥協が必要になるのですね.
では!