コラム:現代生体信号処理

さてさて,本日も完全自分用の研究アーカイブとして記事を書いておきます.

この前,足立修一先生第61回自動制御連合講演会の講演論文集こちら)を拝読させていただき,ものすごく面白かったので,アーカイブの方でシェアしておきます.

タイトルは「制御工学と人工知能の近くて遠い関係」です.
制御の歴史をざっくりと説明して,それと同時にAIの歴史(それこそ1956年のダートマス会議の話)も足立先生の視点で絡めて書かれたものすごく楽しい講演論文でした.
また,2019年3月号で,「ダイナミクスと機械学習の融合に挑む」という特集が発行されるようですね.読みます!!とだけ,,,

んで,この「制御工学と人工知能の近くて遠い関係」を読んでみて,僕らの生体信号処理の方法も結構,制御工学の分野と似ているなーと思っていたりするのです.

ちょっとおいらも思ったことをコラムとして書いておきます.

現代生体信号処理(モデルベースドな生体信号の解析)

脳波を用いてヒトの状態推定を行う方法は大きく分けて二つあると考えています.
ここで制御工学の言葉をあえて借りると,それは古典的現代的かというものです.

古典制御ちっくに説明を続けると脳波信号の動特性を伝達関数法のようなもので記述する方法です.
これはある関数を経由した入出力信号に着目するというものであり,解析に用いた中間の関数の動的モデルをアクティブに活用することはないです.
例えば短時間フーリエ変換を用いて時間的な周波数応答によりヒトの状態推定を行うといったようなものだったりすると思います.
(他にもリアプノフ指数の解析など...)

この時代,脳波のような高次元な情報が入っている生体信号の動きの認識は,非線形性やカオス性が認められており,状態を記述するためのモデリングが困難であったと思います.

しかし,1976年に非線形差分方程式でカオス的挙動が確認されてから,脳波信号処理の方法が一気に現代的になったように思います.
このまま現代制御ちっくに話を進めると,例えば,カルマンフィルタのような系の内部状態に着目した理論が構築できるようになったということですね.
(詳しくは,上の足立先生の講演論文をcheck!)

つまり,対象である脳波のダイナミクスを微分方程式によりモデリングできるということですね.
これによって何ができるのかというと,内部の状態を表すパラメータという概念が入ってくるため,系の状態を物理的に推定できたりします.
すなわち,脳波信号のダイナミクスから直接,集中度合いなどの状態が観察できることを意味します.

おいらたちの興味はこの脳波信号のダイナミクスをどのように記述するか,言い換えると,現代的な生体信号の解析をするということです.
(まだ制御工学の言葉を引っ張っている,,,笑)

この現代生体信号処理の課題の一部をあげると,計測される信号個々の強い非線形性のため,そのダイナミクスを記述する際の状態変数が数個に限られてしまうという点があります.
脳波の古典的な信号解析の多変量を扱えるという大きなメリットはとても素晴らしいものでもありますよね.
ダイナミクスの記述に関しては,未だ個々の信号のモデリングを行なっているのが現状だったりします.

問題点や課題もあるけど,価値はあると信じて,,,!

それでも,モデルを用いた信号解析は意味があると思っています.
おいら達は数理モデルの開発を行っていますが,脳機能を調べるためだけのものではなく,日常で実用できる方法もあれやこれや研究していたりします.

近頃は,脳波信号を活用して機械を制御するブレインマシンインターフェース(BMI)の研究開発が盛んだったりします.
ガートナーのハイプサイクルにもBMIは黎明期に当たる期待度を示しています.
(世のゲームチェンジが起こるまであと10年くらいはかかりそうですが,,,)

それでも,世の中の流れとしては,脳機能を調べて生体を理解しようというニューロサイエンスから,社会的に価値のあるニューロテクノロジーへの応用がなされつつあることが読み取れると思います.
脳機能を調査する,もしくは,脳機能をうまく活用する,というどちらの目的も,脳波信号の処理が必要であることには変わりはないので,これら二つは分断されるものではなく,相互作用のもとに学術的および社会的発展が望まれているものだと思います.

終わり(以下は関連書籍でオススメ).